2002年8月、札幌市に住む鹿野靖行という男性がこの世を去りました。
42才で亡くなった鹿野靖行さんは筋ジストロフィーを患いながら、「自立」した生活を送っていました。
「自立」した生活というのは、多くのボランティアを自ら集め介護に参加してもらって「生きていく」ことでした。
ボランティアで介護に来た人に「申し訳ない、ありがとうございます。よろしくお願いします」と礼を尽くすべきと建前でも思っている人は、映画を観ると固まった概念をぶっ壊されることでしょう。
ボランティアにとことん我儘に接した鹿野靖行さんの生き様と関わったボランティアの生きざまのぶつかりあいをスクリーンで見ることになります。
映画「こんな夜更けにバナナかよ」―鹿野靖行さんが生きていた当時かき回した空気を再び感じることになる作品です。
こんな夜更けにバナナかよのあらすじ
筋ジストロフィーで車椅子生活を送っている鹿野靖行は、ケア付きハウスで自らボランティアを募り、「自立」した生活を送っていました。
ボランティアでやってきた人に遠慮することなく、我儘で図々しく、おしゃべりで命令する鹿野。
介護を受けている身と思えない我の強い性格に、気弱なボランティアは振り回されっぱなしです。
人は、強い性格に惹きつけられていくのでしょうか?
傍若無人ともいえる鹿野のまわりには、いつもたくさんのボランティアが絶えません。
鹿野に言わせれば
「出来ないことはやってもらうし、生きていくために言いたいことを言う」
というスタンスです。
医学生の田中久は鹿野のボランティアに参加していますが、鈍くさくていつも鹿野に怒られています。
悩みながらボランティアを続ける田中を心配した恋人の安藤美咲が、鹿野に直談判しにやってきました。
しかし、ボランティアの1人だと思い込んでいる鹿野は、夜中の2時に
「眠れないからバナナが食べたい」
とボランティアの田中を叩き起こし要求します。
その様子を見て、腹をたてながら真夜中の街を駆け巡りバナナを買って帰ってきた美咲。
結局、美咲も「鹿ボラ(鹿野のボランティア)」として活動にひきずりこまれていくことになります。
鹿野は美咲が田中の恋人とは知らずに、好意を持つようなっていきました。
美咲への恋を田中に伝言するように頼む始末です。
こんな夜更けにバナナかよの結末をネタバレ
しかし、そんな鹿野の病状は着々と進んでいました。
筋ジストロフィー症の症状で普通に呼吸する力が弱くなってきたのです。
人工呼吸器を付けなくてならない状態になった鹿野は、それでも「自立」した生活にこだわりました。
人工呼吸器をつけると、痰の吸引が必要になってきます。
2012年まで、痰の吸引は医療行為という位置づけで医療従事者、または暗黙の了解で患者本人か患者の家族にしか認められていませんでした。
これはどういうことか?
鹿野本人が痰の除去ができないからだの状態で、「自立」した生活を続けるのは不可能ということです。
しかし、鹿野は
「ボランティアは僕の家族だ」
と主張し、「自立」した生活を続けたのです。
2012年、訓練した介護職員の痰吸引が認められることになりました。
鹿野の行動が制度改正のきっかけの一つになったともいわれているそうです。
冒頭にも、書いたとおり、鹿野は人工呼吸器を装着しながら、大勢のボランティアとともに「自立」した生活を送り続け、2002年42才、この世を去りました。
「鹿ボラ」として鹿野に関わったたくさんの人々の心に変化が生じました。
そして、映画化された作品を通して大泉洋さん演じる鹿野は再び、視聴者に問いかけてきています。
ボランティアって何?
傍若無人な障がい者で何が悪いのかよ?
命がけの我満の何が悪いのかよ?と。
こんな夜更けにバナナかよキャストは?
・鹿野靖行役:大泉洋 筋ジストフィーながら「自立」した生活を続ける主人公
・安藤美咲役:高畑充希 田中の恋人
・田中久役:三浦春馬 鹿ボラ
・高村大介役:荻原聖人 ベテランボラ
・前木貴子役:渡辺真起子 ベテランボラ
・塚田心平役:宇野祥平 ベテランボラ
・泉芳江役:韓英恵 鹿野担当の看護師
・鹿野清役:竜雷太 鹿野の父
・鹿野光枝役:綾戸知恵 鹿野の母
・田中猛役:佐藤浩市 田中の父
・野原博子役:原田美枝子 鹿野の主治医
まとめ
原作は、鹿野さんを取材して本にまとめた渡辺一文著のノンフィクション「こんな夜更けにバナナかよ」。
鹿野さんが亡くなった後、本が発行されました。
作者の渡辺さんは本書を書く際、「人が人と生きることの喜びと悲しみ」を常に考えていたとコメントしています。
(参照URL: http://www.edia.jp/watanabe/watanabe/_oya_1_2.html)
映画化されることで私は初めて、原作本を知り、そして鹿野さんという方を知りました。
激しく強い生き方に圧倒されました。
鹿野さんの生き方が好きか?と聞かれると、たぶん好きにはなれないかもしれません。
しかし、プラスの感情であれマイナスの感情であれ、人の心に爪痕を残す人物だったのかなと感じました。
そして、固定概念をひっくり返す人間力に持った方だったのかもしれないなとも感じました。
今、この映画が公開されることに意味があるのでしょう。
コンプライアンスとかハラスメント対策とか「人に優しくあろう」とする現代社会にどこか歪を感じるなか、一石を投じる作品になるかもしれませんね。