お金とは何か?幸せとは何か?
現代社会を生きる私たちが直面している問題を真正面から問うて2015年本屋大賞入選した川村元気著の「億男」が2018年映画化されました。
監督はNHK版「ハゲタカ」を手掛けた大友啓史さん。
お金がまさしく虚しい紙きれとなり、子供の手に羽毛となってフワリと落ちてくる映像を覚えている方もいるのではないでしょうか?
新感覚マネーエンタテイメントと銘打った映画「億男」-お札が舞う、飛ぶ、そしてその札束がヒラヒラ落ち続ける向こう側の世界を目指す人々の物語です。
億男のあらすじ
一男は妻と子供がいるごく普通の幸せを手に入れた人生を送っていました。
しかし、一男の弟が借金3千万円を残して失踪。
一男が借金を背負うことになり、生活は一変します。
借金返済のため、本業の図書館司書の仕事の他に夜間にアルバイトを掛け持ちする生活の中で、一男は娘のまどかが習っていたバレエをやめさせたいと妻の万佐子に提案します。
これがきっかけで、一男は妻と対立、別居生活になってしまいました。
借金を抱え、家族と別居、ダブルワークの日々。
たまに子供と会えるのだけが一男のささやかな喜びになっていました。
その一男が宝くじで三億円を当てました。
喜びもつかの間、大金を手にした人々が幸せな人生を歩んでいるわけではないことに激しい不安を覚えた一男は、大学時代の親友を思い出しました。
ベンチャー企業を成功させ大金持ちになっている九十九。
一男は九十九に相談することにしました。
久しぶりに会った九十九は一男に三億円を現金化してこいといいます。
お金のリアルな重みを感じろというのです。
現金化した三億円を持って帰ってきた一男に九十九が用意していたのは「お金を湯水のように使うパーティ」でした。
札が舞い、美女が群れ、芸能人が盛り上げるバカ騒ぎ。
酔った一男が眠りに落ち目覚めた時、九十九は三億円とともに消えていました。
三億円を取り戻さなければならないー 一男は九十九を探し始めました。
手がかりはすぐに見つかりました。
九十九とベンチャー企業を経営していた三人が判明したのです。
九十九のベンチャー企業は売却されていました。
いっしょに経営していた四人には多額の売却金が入っていました。
九十九の情報を求めて、一男は三人に会いにいくことになります。
九十九とともにベンチャー企業を成功させた三人は、皆それぞれ大金持ちになっていました。
十和子は団地に住む専業主婦になっていました。
お金で苦労した十和子は金持ちと付き合って(九十九とも過去に付き合っていました)いましたが、付き合うなかで自分が愛しているのがお金なのか人なのかわからなくなっていきました。
九十九と付き合っていた時も、高価なプレゼントをもらうほど、心が離れていくと感じていました。
結局、結婚したのは公務員でした。お金を持っていないので、愛で結婚したと感じることができたからです。
夫に大金があることは言っていません。
しかし大金を隠し持っていることで気持ちが平穏になると言いました。
ギャンブルが趣味だという百瀬とは競馬場で会いました。
百瀬は一男にお金を貸すから馬券を買ってみろと言います。
予想が的中して百万円が一億円になりました。
百瀬は次のレースでオッズ三倍の馬に全部賭けろといいました。
当れば失った三億円と同額です。
一男は一億円を賭け、負けました。
一男はまた無一文に戻りました。
しかし、百瀬が言いました。
実は馬券は買っていなかった。と。
一男の一億円も無一文に逆戻りしたことも一男の頭の中で起きただけと百瀬は言いました。
百瀬はベンチャー企業の売却金を手にした後、お金目当てで寄ってくる人間をみるうちに、人間不信になっていました。
嫌になってお金をギャンブルで全部使おうと思ったのに、賭けに勝ち続け、お金は増えていると言いました。
お金を持てば持つほど、不安は増して、もっとお金が欲しくなるのだ、と百瀬は言いました。
最後に会ったのは千住。
億万長者になるためのセミナーを開催していて、千住は「教祖」のようになっていました。
一男に会った千住は、九十九と経営していたベンチャー企業のことを話し始めました。
九十九は起業時のスタッフ募集の時、応募してきた三人を「僕を信じるなら、受け容れる」と言って雇ったのだと言いました。
企業は成功し、買収の話がきた時、三人は九十九を裏切ったのです。
四人のベンチャー企業は売却され、巨額の売却金が入りました。
九十九は「僕を信じる人を求めていた」というと、三人の前から姿を消しました。
三人は九十九の信用を失ったのです。
千住は、九十九を裏切る先頭にたっていました。
激しい後悔の中、売却益だけは守っていこうと決意して始めたのがセミナーなのだと言いました。
セミナーは利益を出しています。お金は増えています。
そして千住はそのお金から逃れることは、もうできないだろうと言いました。
一男には
「九十九を信じつづければ、あなたはお金と幸せの答えに近づくだろう」
と言いました。
九十九の居場所は結局わかりませんでした。
万佐子とは離婚することが決まりました。
万佐子は、娘のバレエをやめさせたいと言った一男を許せなかったと言います。
お金の問題ではないのだ、と。
娘にとってバレエは「生きるための欲」で、それをお金のために奪うことはできないというのが、万佐子の主張でした。
一男が宝くじを当て
「このお金で借金を返してやり直そう」
と言った時も万佐子は首を縦に振りませんでした。
お金で家族を立て直すというのは、お金に頼ることでしかなく、生きる「欲」を失っているから、いっしょに暮せないというのが万佐子の言い分でした。
離婚の前に、娘のまどかのバレエの発表会を2人揃って見ることになりました。
離婚することを承知しながら、娘のまどかは懸命に踊り、一男と万佐子はまどかを見守りました。
バレエの発表会の帰り、九十九は突然一男の前に現れました。
九十九の目的をネタバレ
三億円の宝くじを当てて一男が九十九の元に相談にきた時から、九十九は一男に3人と話す算段をつけていたと言いました。
「お金と幸せの答え」を一男が見つけることが、九十九の目的でした。
九十九が尋ねました。
「答えは見つかった?」
「まだわからない。でも答えは人間の中にある」
一男が答えると九十九は
「解は人それぞれだよ」
と言いました。
では九十九の答えはどこにあるのでしょうか?
九十九にとっての答えは「信用」でした。
お金は人が作ったシステムであり、信用で成り立っています。
しかし、ベンチャー企業の買収で九十九は裏切りにあいました。
人が信用できなくなりました。
九十九が一男の三億円を盗んでも一男は九十九を信じて待ってくれていたー九十九は人を信じてみようとまた思えるようになったと言います。
九十九は自分の答えを見つけることができたと言って、一男の前から姿を消しました。
三億円の入ったカバンが一男の元に戻ってきていました。
一男は娘が欲しがっていた自転車を買いました。
それ以上、お金で欲しいものは一男には見つかりませんでした。
今一男が欲しているのは、妻の万佐子と娘のまどかと再び家族になることでした。
映画キャスト一覧
・大倉一男役:佐藤健
・古河九十九役:高橋一生
・大倉万佐子役:黒木華
・あきら役:池田エライザ
・安田十和子役:沢尻エリカ
・百瀬役:北村一輝
・千住清人役:藤原達也
まとめ
大金を手にした人々から「お金と幸せ」の在り方を考えるストーリーです。
原作では九十九は「答えは人それぞれ」と言います。
実際、本を読んだ人の感想も、啓発本に近いと感じたというものが多く、作品に触れた人々が何をどう感じるか自体を投げかける内容です。
映画でも、やはり「お金と幸せ」の答えが出るとは思いません。
なぜなら、人は何千年も繰り返し問い続けているのですから。
自分なりの答えを見つけたと思っても、人生の中で答えが不変であるとも言い切れません。
それでも、映画「億男」で突きつけてくる問いについて考えることが、きっと大事なことなのだろうなと感じます。