平成の奇書、伝説のコミックが平成の最後の秋に映画化が実現した「ハードコア」
原作・狩撫麻礼、作画・いましろたかしのコンビで作られた「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」は狩撫麻礼氏といましろたかし氏のコアなファンに支持され続けてきた作品です。
作品に流れる「狩撫節」は、平成という時代に常に問いかけ続けます。
「あちら側」と「こちら側」-右近と左近に象徴される2つの人生。
違う人生を歩んできた2人がある出来事で兄弟ゆえ?交錯していくことになります。
なぜ奇書といわれるのか?なぜ映画化なのか?
映画を観た個々人が感じる「何か」を簡単に紹介するのは難しいです。
それでも、紹介させてください(^^;。
ハードコアのあらすじ
権藤右近は「こちら側」の人間です。
「こちら側」とは「狩撫節」でいうところの、人生がうまくまわっていない人間といえます。
右近は真っ正直に生きる「こちら側」であることに、生活は苦しくても、真っすぐに生きていることに誇りを持って生きています。
右近の弟は「あちら側」の人間です。
一流商社のエリート社員で、仕事のためなら後ろ暗いこともこなします。
社会的には成功者である左近ですが、兄の右近の生きざまを否定しながら、どこかで嫉妬しています。
考え方も生き方も違う兄弟ですが、仲が悪いわけではありません。
右近は正しいことは正しいと突っ走ってしまうので、人間関係は全くうまくいっていません。
そんな右近の親友は牛山といいます。
牛山は言葉をうまく発することができません。
牛山も「こちら側」の人間です。
右近と牛山は、埋蔵金発掘を目論む金城という人物に雇われ、穴を掘るアルバイトで日銭を稼いでいました。
ある日、牛山が寝泊まりしている廃工場で、右近と牛山はブリキのロボットを見つけました。
起動したロボットを右近と牛山はロボオと名付け、友人として仲間としてともに行動を始めました。
右近を訪ねてきた左近がロボオの価値に気が付きました。
ロボオは最先端技術の固まりでした。
左近はロボオを世の中に発表して一儲けしようと目を輝かせますが、ロボオを仲間として扱う右近は左近を殴りつけました。
「ロボオは仲間なんだ!」
左近も世に発表するのは諦めますが、ロボオの能力で埋蔵金を見つけることを思いつきます。
金属探査もできれば、掘削能力も人の手彫りよりずっと優れています。
右近と左近、牛山の3人とロボオは、こっそり埋蔵金採掘現場に出かけ、埋蔵金を発見してしまいました。
盗むなら、クリーンな資金にしなければなりません。
そういう段取りは左近が俄然力を発揮します。
金塊を運び出し、クリーンなお金に変えるために外国に行く手配を始めたのです。
一気に事態はきな臭さを増していきます。
人は金の匂いに敏感な生き物なのです。
左近が出かけている間に右近たちはどんどん面倒なことに巻き込まれていきます。
「あちら側」の人間と理解しあえない右近と牛山、そしてロボオはどうなる!?
原作漫画の評判は?
非常にコアなファンがついています。
20年前の連載当時は、電子書籍がなかった時代ですので、「ハードコア」を読みたくても本がない状態が多々あったようです(おそらく文庫本の発行部数が少なかったため)。
結果的に古本屋巡りで本を探すはめになった方も多かったようです。
映画化で原作「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」が電子書籍化、また新装版が復刊したことで、初めて作品に触れる読者も多いのです。
往年のファンと新規ファン、様々な感想がネット上でも吐露されています。
【ハード・コア 平成地獄ブラザーズ 1 (ビームコミックス)/狩撫 麻礼】なんだこの暗くて救いがなくて情けなくて悲しい漫画は。昔だったら大嫌いだったと思うけど、今は本当に大好きだ、こんなの。
「ハード・コア」狩撫 麻礼 (著), いましろ たかし (著) 読了。おもろくて切なくて、文字通りにぶっ飛んで、やがて哀しき。良作。埋蔵金を掘り当てた気分。
「ハード・コア」いましろたかしのテンポが狩撫にはまっている。コマとコマの間が何ともいえない悲しさを帯びていてグッとくる。本当素晴らしい。セリフの無いコマの効いてること!!!こんな曲作りたいわ。
いましろたかしには狩撫と組んだ傑作『ハード・コア』があるが、オレがこの作品をイマイチ推しきれないのはやはり『ハーツ&マインズ』を超えていないと感じるからだ。この2作は北野武映画でいえば『ソナチネ』と『HANA-BI』のようなもので、どちらを支持するかハッキリと表明しなくてはならないのだ。
いましろ×狩撫「ハードコア」。最高
映画の期待度は?
山下敦弘監督は原作を読んだ当時、興奮しっぱなしだったと語っています。
その熱狂的な興奮から抜けた状態で映画化することは使命だと感じたと言います。
山下監督に「ハードコア」の話題をふった山田孝之さんと荒川良々さんは、「ハードコア」の元からのファンです。
原作に熱い想いを抱く制作陣とキャストによって作られる作品「ハードコア」は、原作をリスペクトしながら、新しいファンを取り込むべく、多少、作品に丸みを持たせている印象を受けます。
視覚的に「ロボオ」は漫画より、可愛い印象になっていると思います。
映画から、原作「ハードコア」の世界へ誘う入り口としての役割も担っているように思います。
映画を観ていましろ×狩撫タッグの世界にはまる人も続出する予感がします。
ツイッターでの映画試写を見た方の感想をご紹介します
『ハード・コア』試写。兄は真っ直ぐ過ぎて世間に馴染めずトラブル多発。が、大切な存在は必死に守る。弟はエリート商社マン。兄と距離を置きつつ心配する。演じる山田孝之と佐藤健が抜群にいい。弟が兄の部屋にいるロボットのことを遠慮がちに聞くシーンのぎこちなさは完璧!オリジナルラストは後味◎
山下敦弘「ハード・コア」試写。笑って熱くなって切なくなる。最高でした。男はいましろたかし先生にみんなコンプレックスがある(私説)。クソ世の中でなんとかギリギリ立ち回ってる自分でもまだこんな価値観を共感できることに安心する。そんな素晴らしい映画。
『ハード・コア』試写。山下敦弘監督と山田孝之さんの北区赤羽とカンヌ映画祭が大好きな私には、首くくり栲象さん(これが遺作でしょうか。。)も出ていてたまらない面白さがありました。その世界観に佐藤健さんが加わり、役者魂を感じました。荒川良々さんとロボオの可愛らしさに癒されました。
『ハード・コア』試写。伝説的コミックを山下敦弘監督が映画化。社会的テーマと男のロマンが融合し、独特の世界観を作り上げている。兄弟役の山田孝之と佐藤健が真逆のキャラで面白い。真っ直ぐすぎて不器用な兄の言動や、ロボオの挙動が笑いを誘う。原作にはないというラストも上手い。
『ハードコア』試写会で鑑賞。山田孝之振り切ってます。山下監督の一連を追っかけてたけど、山田孝之ここまできたかと。なんとなく日本のホアキンフェニックスと思ってます。
しかし原作の狩撫麻礼先生のストーリーテリングのバランスが異様です。そのバランスで成立させたいましろたかし先生の力量!
【ハード・コア】試写にて
埋蔵金探し、政治結社、ロボット。現実離れした設定の中で描かれるショボい男たちのショボい日常。監督山下敦弘の原点を見ているようで、でも映画は最後、正義に着地する。「完」の文字が出た後のエピソードが素晴らしく、かつ哀しい。
映画の感想を語る方の熱量が半端ないです。
映画で知って、原作にはまっていく方も多そうですので、さらに深い「ハードコア」の世界観を覗いてみたくなる方のために、狩撫麻礼氏のファンサイト「ツキノウタゲ」をご紹介しておきます。
「ハードコア」の世界観が更に深まる場所です(どっぷり浸かれると思います)。
まとめ
20年以上前に発表された漫画を、今映画化するのにすら意味を持たせたくなる世界観が広がる「ハードコア」
不器用で人生がうまくいかない「こっち側」の主人公と、「あっち側」でエリート商社マンをやっている弟、「こっち側」の友人・牛山。
そして「どっち側?」なロボオの出現で男たちの運命は動き出します。
原作漫画を知らない方も映画を観た後、原作を読みたくなる、そんな原作を愛する人々の手によって制作された映画です!